老人ホーム 管理栄養士奮闘記 ~ノロウイルス蔓延時の様子と対策~

こんにちは。外部執筆スタッフの管理栄養士 長谷川晴美です。

管理栄養士奮闘記と題しまして、有料老人ホームでの経験をお伝えしていきます。

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老人ホーム 管理栄養士 奮闘記 ~ 介護食 ~

今回はノロウイルス蔓延時の様子と対策についてです。

皆様の何かのお役に立てれば、嬉しいです。

ノロウイルス蔓延時の様子

有料老人ホームに勤務中の14年間に、保健所に届ける規模のノロウイルス蔓延が二回ありました。

昔むかしは生牡蠣さえ出さなければ避けられるものという認識で、その後は胃腸炎の風邪の一種くらいに思っていましたので、「こんなに蔓延するとは?!」と衝撃的でした。

最初の蔓延は、クリスマスシーズン頃からぽつりぽつりと下痢嘔吐の症状の入居者が出始め、そのうちに職員も増えていき、とにかく毎日毎日、また?!また?!また?!という感じで症状のある方がどんどん増えていきました。

・下痢嘔吐のある方への食事内容の変更や使い捨て食器の手配

・食堂担当者や配膳担当者や厨房スタッフへの細かな指示

・職員や他入居者への注意喚起、感染症対策緊急会議等

イレギュラーな仕事が増え、休むわけにもいかず、休んでいる職員も増え人手も足りず、さすがの私もかなり疲労困憊でした。

自分自身も症状が出ていないだけで感染しているのではないか、いつ感染するかなどの不安もありながらの勤務でしたが、私自身は二度とも何事もなく乗り越えました。

厚生労働省の高齢者介護施設における 感染対策マニュアル※に従い、保健所に届け出を出し終息するまでの約2か月間、保健所へ感染状況を毎日報告しました。

1回目の蔓延は、症状の出方から集団食中毒ではないとの見解で現地調査はなしでした。

1回目の蔓延から数年後の2回目の蔓延は、同じ時期くらいに発生し、その時は2回目ということもあり保健所の現地調査が入りました。

「集団食中毒だったら、やることはやって責任をとって辞表を出そう」と腹をくくっている状況でしたが、こちらも集団食中毒ではないという見解でした。

どのように蔓延したかは明確ではありませんが、1回目の蔓延時は、外食で生牡蠣を食べて下痢症状がある入居者が、大浴場を使用していたこと、嘔吐物処理をした職員がきちんと処理せず蔓延させてしまったことが考えられました。

2回目の蔓延時は、1度目の経験から予防対策をしっかりしていたので感染経路不明で、「これだけやっていたのに」と落胆したのを今でも覚えています。

<参考>厚生労働省の高齢者介護施設における 感染対策マニュアル

・報告が必要な場合

ア 同一の感染症や食中毒による、またはそれらが疑われる死亡者や 重篤患者が 1 週間以内に 2 名以上発生した場合

イ 同一の感染症や食中毒の患者、またはそれらが疑われる者が 10 名 以上又は全利用者の半数以上発生した場合

ウ 上記以外の場合であっても、通常の発生動向を上回る感染症等の 発生が疑われ、特に施設長が報告を必要と認めた場合

・保健所からの助言と対策

①マニュアルを職員全員に周知徹底。特にノロウイルス対策セットの設置場所の周知。

⇒・職員研修の改善

②ご飯のセルフサービスのしゃもじの共有禁止

⇒・厨房内で盛り付けが一番だが、入居者の自立や自由な選択を考えセルフスタイルの策。

・入居者人数分のしゃもじと使用前と使用済のしゃもじ入れを用意する。

・入居者がしゃもじの使い方に慣れるまでは案内人をつける。

③厨房職員専用トイレ

⇒・休憩部屋についているトイレのみの使用を徹底。

・トイレ専用の履物の設置、トイレ後の専用の手洗い場所の確保。

④ハンドソープや消毒液の継ぎ足し禁止

⇒・担当に指導し実施状況の確認。

・容器を洗って乾燥させるので、必要量の容器を買い足す。

⑤厨房以外で調理したものの提供を控える

⇒・恒例の餅つき大会は無期限の中止。

老人ホームにおけるノロウイルス予防対策

感染症予防や発生時に中心となって動く、各部署からの代表委員で構成した感染症対策委員会を設置していました。

情報収集と発信やマニュアル管理、感染症予防を中心に、職員、入居者、面会の家族、外部業者への注意喚起等の活動を主に行っていました。

あとで詳しくお話しますが、例えば、職員には、研修はもちろん、生の二枚貝を食べることを禁止し、いつでも嘔吐者の対応ができるように使い捨てビニール手袋常備を義務付けていました。

入居者へ掲示や呼びかけや予防教室、家族や業者に掲示やプリント配布等をしていました。

また、嘔吐物処理のためのノロウイルス対策セットは各部署と食堂、送迎バスにセットし毎年過不足等の確認をすることも行っていました。

ちなみに、ノロウイルス対策セット内容は、使い捨て手袋、マスク、使い捨て予防衣、ビニール袋、新聞、ペーパータオル、雑巾、次亜塩素酸ナトリウム、水、ペットボトル、スリッパです。

蔓延時は職員全員で毎日全館消毒と換気を行いましたが、蔓延時の翌年からは、12月から2月末まで担当表を作成し職員全員で毎日全館消毒と換気を行うことにしました。

だいたい一人当たり、週1回1時間程度の割り当てになりましたが、どの部署もなんとか時間のやりくりをして継続していきました。

消毒方法は、次亜塩素酸ナトリウムを専用バケツで薄めて、専用タオルで手すりやドアノブ、エレベーターのボタン等の手で触れるものを、換気をしながら消毒してまわりました。

マニュアル作成と見直し

最初は2~3ページ程度のマニュアルも毎年見直し、蔓延後はさらに増えていきました。

保健所の講習会等に参加し情報収集に努め、嘔吐物処理に関しては保健所の資料自体も数回変わったのでその都度変更し、

「ウイルスが飛散するので消毒液の噴霧禁止」「効果がなくなるので消毒液の作り置き禁止」などの情報が入れば、都度追記しました。

嘔吐物処理に関しては、施設独自のアレンジもしました。

というのも、認知症の方がいる、他入居者がいる共用の場所では、嘔吐物に消毒液をかけて放置することは実際的ではなかったからです。

使い捨て手袋を二重にして、放置なしで処理をする方法も記載しました。

蔓延後、入居者からは、隔離期間の不満や、使い捨て食器の不満、見舞いができないことの不満など、たくさんのご意見をいただきました。

そのこともふまえ、最初の蔓延時は一週間の隔離期間でしたが、症状がおさまって48時間の隔離期間にかえ、共用の大浴場やトイレは使用禁止にさせていただくなどの対策をとりました。

使い捨て食器使用は必須ではなく、蔓延の規模に応じて緊急会議で使う時期を話し合うことにも変えました。

その分、食器の消毒方法、残菜処理方法、厨房への受け渡し方など事細かにマニュアル化しました。

ノロウイルス対策セットは各部署と食堂にセットしたものの、使いっぱなしの事態もあり、使った場合の補充の仕方や担当まで決め、マニュアルにも記載しました。

やればやるほど問題がでてくるので、その都度話し合い、マニュアル変更という流れで、終わりなき作業でした。

 

入居者対象感染症予防教室と職員研修

感染症対策委員会が中心となり、入居者対象感染症予防教室を毎年開催し、基本的な知識や手洗いと手指消毒の仕方、風邪症状がある場合の報告のお願いなどをお伝えし、別に手洗い週間を設け食堂の手洗い場で呼びかけ等を行いました。

職員研修では、全体研修で基本的知識はもちろん、ノロウイルス対策セットの設置場所の確認、嘔吐物処理の実践をします。

応用編として、入居者が食堂で嘔吐された場合を想定し、感染症対策委員が入居者役になり、その場で指名された職員が対応し、それを見ながら全員で意見を出しあい問題点等をだしていく、自ら考えて行動できるような研修スタイルにもしました。

例えば、「車椅子が原因で広がるよね」、「通った道も消毒した方がいいね」「他の入居者を他の席に誘導するから食堂が職員一人では対応できなくなるよね」などなど、意見も活発にでました。

全体研修後は、再度各部署研修で嘔吐物処理の手順の唱和をする期間や、部署ごとに再度嘔吐物処理実践を行いました。

3度目はないようにと願いながら・・・

私たち栄養士は、今までも食中毒菌やウイルスなどの見えない敵と戦ってきましたが、今は、世界で未知のウイルス、感染症と戦っています。

介護施設では特に制約があり、想像を超える苦労があると思います。

どうか、乗り越えていただきたいと切に願います。心から応援しています!

次回は、非常食についてお伝えする予定です。