
こんにちは!dietitianjob運営会社、東洋システムサイエンス管理栄養士の廣江です。
特別養護老人ホームで管理栄養士として働いていた頃の体験をもとに、「おせち料理」と「高齢者施設での食事形態の工夫」についてお話しします。嚥下食・ソフト食・刻み食など様々な形態をどう安全に、そして美味しく提供するか——現場ならではの工夫や失敗談も交えてご紹介します。今回は年に一度の大仕事!おせちと特別養護老人ホームでの食事形態の話です。
< ソフト食や嚥下食のおせちを実際に試せる交流会のお知らせあり!ぜひ最後までご覧ください♪ >
📌関連記事
老人ホームで働く管理栄養士の奮闘記 ~ 介護食 ~
目次
特別養護老人ホームでの食事形態
特別養護老人ホームは基本的に要介護度3以上の方がご利用可能な施設です。
つまりは日常生活に補助が必要な方がほとんどで、実際に8割以上の方が車椅子が必要な状態でした。
そして食事に関しても同様に、常食と形態加工食はよくて2:8、そのまま職員給食と同じようなものを召し上がれるのは1割程度な時もあり、いかにお食事の際に気を付けなければならない方が入所されている施設なのかがわかりますね。
主な食形態
ここからは特別養護老人ホームでの食事形態を実体験を含めてお話します。
常食
通常の方と同じ食事です。私が勤めていた施設では職員給食にほぼ同じものを提供していました。
とはいえ米飯を炊く際は浸漬を長く、水分量は多め。他にも煮物等固すぎないように、お肉も噛み切れるよう薄切りに、等。あくまでも特別養護老人ホームでの通常食は基本がやわらかめになっています。たまにもう少し固めが良い、とご利用者から指摘される場合もありますが、基本が集団生活なので多くの人に食べやすい固さで統一させて頂いております、と説明していました。
常食の中にも、一口大きざみ(お魚の皮を取る、お肉へカットをいれる)という少し補助が必要な方へ対応します。主菜に主に補助を入れますが、副菜はよほど固くない限りは同じものでした。
刻み食
刻み食と一言で言っても、施設によりその大きさや調理方法は様々です。
よくお見かけするのは1cm角、5㎜角、粒は不均一が多いです。咀嚼が困難になった方への提供が多いのですが、口腔内でばらけてしまうのため嚥下には適していないとよく議論になる大きさです。私の施設では汁にとろみをつけ、口腔内でまとまりやすいようにソースとしてかけてコーティングする工夫を行っていました。(誤嚥が全くなくなるわけではありません、対象者様に合わせたリスク軽減策も一緒に検討しましょう。)
軟菜食
刻み食に近い立ち位置ですが、形が割としっかりと残っていることが多いです。
真空調理を行っている施設や凍結含浸法の食材を使用している施設、圧力鍋で別調理、等が主になります。形はしっかりのこっているのに箸で切れるほど柔らかいのが特徴で、嚙む力が弱くなったご利用者には良い反面、時間やコストがかかるためあまり採用している施設が多くないのも現状でしょう。
ソフト食
より柔らかく、そして均一に、べたつかないながら形のあるムース様の食事になります。
嚥下障害の方にも食べられるものも多く日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021では2-1に該当します
(※『日摂食嚥下リハ会誌25(2):135–149, 2021』 または 日本摂食嚥下リハ学会HPホームページ: 『嚥下調整食学会分類2021』 を必ずご参照ください。)
高齢者が増えていくにつれ嚥下食が注目され、ここ15年前後でミキサーにかけるだけ…から様々な見た目も味も整った製品やソフト食にするための調整パウダーなども増えています。既製品や加工補助剤を組み合わせることで刻み食を廃止しソフト食のみへ変えた施設等もあることでしょう。ですが刻み食が全くの悪ではなく、食感を楽しむ面や元々の食材の香りを楽しむ面においては優れていることもあり、施設ごとや利用者様に合わせて選択できると良いでしょう。
ミキサー食・ゼリー食
ピューレ状のものが多く、呑み込みが困難な方へ調整されたお食事です。
食材をミキサーにかける際にどうしても水分を入れないといけない為、常食に比べ栄養価が減っている上に量も減るため、栄養の補充は食事だけではなく補助食品等を必要とする場合が多いです。べたつかないような工夫や、調理員によりむらが出ないように気を付けることと、少しでも粒が残っていると危険な方等もいらっしゃり、とても注意のいる加工です。私が勤めていた際は「自分が食べておいしいと思った状態で出すように」と調理員へ何度も伝えていました。ミキサー食とはいえ、食事は皆さんの楽しみになっているからです。
おせちメニューと嚥下食の工夫
ここからはおせちメニューの話をします。
どんな行事食でもそうですが、常食が基本でそこから展開するにつれ、同じものは使用できないので代替や、ミキサーにかけるので元の見た目がわからない等、常食以外の利用者様へどう提供するか、どこまで同じ内容で出せるか、刻むまたはムース食とするのであればどこまで近付けるか…これは高齢者福祉施設や病院での課題だと思っています。同じ食事料金を出して、かたや華やか、かたやいつも通りではやはり面白くありません。食事が運ばれてきたときのワクワク感は食欲に直結するのですし、自分がご本人なら、ご家族の立場なら、そう思えばなるべく同じように出したいと常日頃考えながら仕事をしていました。
お正月には欠かせないけど危険なアレ…!
さて、皆さんはおせちといえば何を思い浮かべますか?
黒豆、きんとん、えび、昆布巻き、なます…私の勤務していた施設では刻み食以下にはこんな工夫をして出していました。
黒豆ゼリー(黒豆ペーストと煮汁も使って豆の味がバツグンのゼリーでした)
きんとんペースト(お芋と栗の汁をデキストリン入りのゼリー化剤で固め、安全な嚥下を実現)
えびムース(かにかまを少しかためのムースにし、短冊状にカット。「つ」の形で盛り付ければ何となくエビっぽい…!)
紅白やわらかムース(ホタテ味とエビ味の市販のカップムースをさいころ状にカットし、華やかに市松模様に盛り付け!)
(昆布巻と寿かまぼこはふくなお様の商品を購入しておりました。松風焼きには林兼産業様のソフミート、おやつの寿饅頭も林兼産業様のものを使用させていただいてました。切るだけや形を整えるだけでしたので当時大変助かりました…)
等々工夫を凝らして嚥下障碍をお持ちの利用者様にもお重の蓋を開けた時の感動をお届けしたいと彩から味まで考えて毎年アップデートを重ねていました。
ですが、何か足りないと思いませんか…?
──お正月に欠かせないものといえば…お餅ですね。
私が勤務を始めたころは本当に極々限られた利用者様だけに出していましたが、それでも危険であるとの話が出たため、提供しなくなって早ウン年…。利用者様からは「危ないと分かっていてもやっぱり食べたい。」そんなお声も聞かれましたが、ご本人が思っている以上にご高齢の方のお餅は危険なものです。嚥下能力はもちろん個々に差があれど、要介護度が3以上の方が入所可能な特別養護老人ホームで生活されてる方にはお餅を安全に嚥下できる方はいないと言い切れるほどでした。
でもお雑煮が出したい…私が導いたのはもち米をムースにしたらどうだろうか…という発想でした。
お餅をゼリーに?
当時もすでに柔らかいお餅等は出ていました。噛み切りやすい、柔らかい、様々ありましたがそれでも危険な固さだとケアワーカーと試食してやめていたのです。ですので自作することにしていました。
デキストリン配合のミキサー粥用の加工調整剤を少し多めに使用し、もち米を(白玉粉等でも可能かと思います)加工してみよう。そう思い立ったが吉日。早速試作へ。調理のサブチーフを巻き込みながらもち米のお粥を調理、グラム数を変えながら加工していきます。
加工したお餅ゼリーは熱いうちに薄型バットへ。そして冷やす…。今はネット上にレシピが見られますが、当時はあまりなかったので試行錯誤でした。
こうして出来上がった伸し餅のようなゼリーを四角くカット。汁椀へセットし少しぬるめのとろみだし汁を上から注げばぷかりと浮き上がる白く四角いおもちゼリー…!見た目も嚥下も完璧、味ももち米の味がしっかりとしデキストリンのおかげで自然の甘味も出ておいしい!間違いない…意気揚々と試作品を試食してもらうおうとケアワーカー立ち合いの元数名の元へ。
お餅の醍醐味
ケアワーカーさんにも見た目は好評。認知機能がしっかりめの方へお持ちしました。
ええー、これがお餅?と訝しげな利用者様を急かし召し上がっていただいて、一言。
「お餅じゃないよ。」
ええ~!
「だってあの食感ともちもちがないんだもん。」
──お餅の独特な食感である張り付くもちもち感とずっしりとしたお米感、あれがないといくら味や香りがお餅でもお餅とは言えない…。試食して下さった利用者様皆がそうおっしゃったのです。せっかく試作したのにとほほ…と肩を落としながら栄養課へ帰ったのでした…。(本当に味は美味しく自信作だっただけに…)
お餅として認識してもらうのにはもちもち感が必要なのか…もちろんもちもちはあまり嚥下に適さないのでこの話は頓挫したのでした。嚥下食として安全第一として、見た目と味はもちろん、それだけではないその食品ならではの満足感、それらしさを出すのは非常に難しい…そう痛感したエピソードでした。
おせちにソフト食を取り入れて見栄えUP!
ソフト食の見栄えはいいけど、うちはまだなのよね~…調理員の手間を考えるとなかなか…
そんなお悩みをお持ちではないでしょうか?実際美味しいの?簡単ってどの程度?
おせち用のソフト食、お試ししてみませんか!?
現地開催交流会~林兼産業様とコラボ☆ソフト食おせち交流会~
あのまごころキッチンで有名な林兼産業株式会社とのコラボ企画、林兼産業様のソフト食・ソフミートややわらくマルシェを試せる!試食できる!人気商品のわたようかんやソフトクレープを頂きながらお悩み共有ができる!夢のような企画です。定員は20名までとなっておりますのでお申し込みはお早めに!
献立にすぐに反映できる!加工の負担減のお話等盛りだくさんの2時間、ぜひいらしてくださいね。(参加費無料!)
栄養士・管理栄養士の転職はDietitianJob!

あなたにあった働き方を一緒に探しませんか?弊社のエージェントは全員実務経験ありの栄養士・管理栄養士!
詳しいお仕事の話や、専門性のある質問にもお答えできるので転職後も安心!
弊社では、あなたの経験や強みを最大限に活かせるようにフォローし、理想の職場への転職をお手伝いします。
詳しくはこちらをご覧ください。