老人ホーム 管理栄養士奮闘記  ~異物混入~

こんにちは。外部執筆スタッフの管理栄養士 長谷川晴美です。
管理栄養士奮闘記と題しまして、有料老人ホームでの経験をお伝えしていきます。

今回は 異物混入についてです。
皆様の何かのお役に立てれば、嬉しいです。

老人ホームでの異物混入とは

安全・安心の食事を提供するために、異物混入を防ぐことも1つの課題になります。

クリーンルームならまだしも、施設の厨房や食堂、とくにオープンキッチンでは、限界があることは否めません
と言っても、異物混入を「仕方がない」と簡単に考えないようにしていただきたいです。
異物混入をおこせば「厨房の衛生管理や職員教育」が問われることになります。

実際は、どのような策をたてても、気をつけていても、髪の毛や虫等はなかなか難しいと感じているのが正直なところですが、とにかく、やれることを徹底して継続していくことが大切です。

どういうわけか同じ入居者にばかり、立て続けに髪の毛や虫が入ることもあり、「謝罪したばかりで、またかぁ」と、投げ出したい気分になることもありました。

あきらかに、入居者の髪の毛っぽいなあと思っても、そうは言えませんし、証明することも容易ではないので、みんなで坊主にしたいくらいの気持ちでした。

おきてしまった異物混入に対するきちんとした対策や対応が、「信頼回復」に繋がりますので、ひとつひとつ丁寧かつ誠実に取り組んでいきたいです。

謝罪の仕方等については、苦情対応編をご参考にしてください。
今回は、実際の事例と対策をお伝えします。

異物混入の実際と対策

基本的には、厨房を含む施設内の清掃等を徹底することが重要ですが、施設や機械器具の経年劣化によって異物が混入したり、虫が施設に入り込んでしまう場合もあります。

実際におきた事例における異物混入の原因を分析し、それぞれの異物や混入過程に応じた効果的な再発防止対策を実行していきます。

髪の毛

食事提供するまでには、仕込み、調理、盛り付け、配膳、実食の工程があります。
それには、厨房職員、食堂職員、入居者本人が関わるので、実際には誰の髪の毛か、どこで混入したかの特定は難しいです

さすがに入居者に対策をお願いするのは難しいので、職員個々にルールの徹底をします。
周知徹底するための教育やチェック方法の確立、定期的なルールの見直しも必要です。

<例>
厨房職員:髪の毛が出ないようにネットを被ってから帽子⇒服は粘着ローラーで髪の毛やほこり等をとる⇒お互いに目視
食堂職員:三角巾の為、髪の毛ができるだけ出ないよう前髪はすべて入れ、耳を半分覆うようにする⇒服を払ってから食堂へ⇒お互い目視

ゴキブリ

30年ほど前に勤めていた、古い病院の地下の厨房では家庭にいるような黒々とした大きなゴキブリやねずみが出た時もありました。

私が勤めていた有料老人ホームも、古い施設で厨房特有のゴキブリをよく見かけましたが、害虫駆除の業者を毎月入れていたので、仕方がないことと勝手にあきらめていました。

あるとき、入居者の鍋料理にゴキブリの死骸が入っていたのです。
密閉できない木蓋だったので盛り付けて厨房に置いてある間に蓋の隙間から鍋の中に入ったか、食堂にセットしてある時か、取り皿についていた可能性があります。

施設全体の問題として、議題にあがりました。

ゴキブリも薬剤に耐性ができるようで、おおがかりな高額の強力な害虫駆除をおこなったところ、ゴキブリは見なくなりました。
あきらめずに、事がおこる前に害虫駆除のプロに相談し対策するべきでした。
自分の意識の低さを思い知らされた事例でした。

ある時期から、蚊のような虫が食事に入ることがありました。

厨房の扉には網戸もついていましたので、できるだけ扉自体の開閉時間を短くすることはしていました。
食堂は、網戸をつけづらい窓で網戸なしで換気をしていましたので、網戸の取り付けを要望しました。

高額になると、かなりしぶっていましたが、
「厨房に事細かに対策をしてもらっているのに、施設側が何もしないのはいかがなものか」と、かなり強めに懇願し、網戸をつけてもらうことができました。

ネジ

親子丼にネジが入っていたと報告がありました。幸い、口の中のけがや入れ歯の破損はありませんでした。

厨房へネジを持って確認をしにいくと、調理師兼厨房の所長が、親子丼を作る小鍋のねじがはずれてしまって探していたとの返答でした。

使う前の器具点検を怠ったこと、気づいた時点で混入の恐れがあるものを廃棄しなかったこと、自己判断で報告がなかったことが原因の事例でした。

食材の異物(貝殻・あさりの砂利・肉の骨)

冷凍シーフードミックスや冷凍あさりの取り切れていなかった貝殻や砂利、鶏肉の骨等が混入することもありました。

業者や製造元に連絡し、改善を促すために、改善策を含む調査報告書等を提出していただきます。
場合によっては、メーカーを変えることもしました。

なかなか難しいですが、厨房にはできる限り、仕込みや調理、盛り付け時の目視の徹底をお願いしていました。

漂白剤

厨房で漂白剤につけていた湯呑を入居者が手を伸ばして使ってしまいそうになるヒヤリハットがありました。
目の届かないところに場所を変更してもらいました。

マグネット

たまたま食事介助をしていたご家族から煮物にマグネットが入っていたと報告がありました。

食堂職員が、お膳の上でマグネットで作った名札が入っている箱をひっくり返し、1つが食事に入ったことに気づかず提供したという流れでした。

食堂職員の自己判断と、お膳の上での作業やそのままお膳を出したというところでは衛生管理の低さが問われる事例です。
再発防止のため、個人に指導、全体に周知徹底、マグネットの使用を禁止しました。

ビニール・ホイル

・きざみ食の時などに手袋の切れ端を切ったことに気づかず混入⇒目立つよう色付き手袋に変更
・オーブン皿の下に敷いていたホイルの切れ端が魚の下についていた⇒ホイル使用不可
・もやしのビニール袋を包丁で切ったためビニールの切れ端が混入⇒袋ははさみで切ることを徹底

発生後の対処法

異物混入は事故の一つですので、ヒヤリハットや事故報告書の扱いになります。
原因を分析し、再発防止対策を考え、マニュアル化し周知徹底していきます。

「食事関係は給食委託業者の管轄だから施設の責任ではない」ということではありません。
すべての業務について施設に管理責任があり、事故発生時の対応は施設の責任ある対応が求められます。
例えば、事故に関して入居者の家族に連絡を入れなかったために、後に判明して家族からのクレームにつながることもあります。

どのようなことも、たいしたことではないと思わず、真摯に受けて止める姿勢が大切です。

栄養士・管理栄養士ができること

私生活ではお客様側になりますので、外食時等異物混入に遭遇することもあります。

私自身は、居酒屋で豚肉チーズフライを作るときに肉を止めてあったであろう楊枝がそのまま埋もれていて気付かずに食べ、口の中に刺さったことがあります。
一緒にいた友人等のケースでは、ビニール袋の切れ端、髪の毛、卵の殻、虫、絆創膏、バニラ味のシェイクがコーヒーフレーバーになっていたなど色々あります。

友人の話ですが、レストランのサラダに、生きている青虫が混入していて、ホール担当の人は謝り、厨房へそのお皿を持っていったところ、厨房から店長らしき人が出てきて、「無農薬だから」と言い訳をされたそうです。
確実にNGで、これは、お客様が店側を思いやって言うセリフですよね。

「人のふり見て我がふりなおせ」の精神で、自分たちは大丈夫ではなく、どのような事例にも興味を持ち分析し、対策等を共有できるといいです。

他の給食施設の事例で、金たわしの金属片の混入という報告があれば、布たわしに変更したり、
調味料の瓶のガラス片混入となれば、ペットボトルの調味料に変更することもできます。
もちろん、ペットボトルも万能ではなく、中蓋や外蓋、ラベル等の混入に気をつけなくてはいけません。

その他、調理済みの食事は目で見てもなかなか異物が確認できませんので、異物が混入しているかもしれないし、混入していないかもしれない状況です。

勇気がいることですが、異物混入が確認されれば調理済みの食事は廃棄します。
混入の可能性も含め、廃棄の基準のルールや代替えの方法等を決めておくといいです。

自分が休みの日等もあり、一人では目が行き届かないことが多々あります。

自分自身を律することはもちろんですが、厨房や食堂担当スタッフへの教育、そして理解と協力が不可欠になります。
率先して定期的に施設チェックをしたり、継続的に職員研修等を行える体制を確立していけるといいです。

皆様も、各施設等で日々奮闘していることと思います。
何をするにも時間も手間もかかり、反発もあるかと思いますが、あきらめずに闘ってください。

その奮闘が実を結びより良くなっていくよう、同志として、これからも心から応援しています。

最後までお読みいただきありがとうございました。