透析クリニックで働く管理栄養士

こんにちは。
外部執筆スタッフの管理栄養士のKです。

私は、約15年間の病院管理栄養士を経て、現在は透析クリニックで栄養相談をしております。

前回は、透析クリニックで働くまでのお話をさせていただきました。
今回はクリニックでのお仕事内容と私が実際に透析患者さんの栄養相談の際に意識しているポイントについてお伝えしたいと思います。

1)適正なエネルギー摂取(三大栄養素バランス)

透析患者さんの多くは食事制限の経験から、「食べられるものがない」「食欲がなく食べられない」といった食事に対する悩みを抱えています。
特に長期透析患者さんになると痩せが問題になることが多く、しっかりエネルギーをとることが重要です。

塩分、水分の制限や血糖値を気にして、「ごはん」を食べない患者さんが多くいます。
特に高齢者ではパンのほうが手軽で食べやすいとよく聞きますが、塩分がなく、リンやカリウムが低いエネルギー源として、白米や餅などでしっかりエネルギーを摂取することは重要です。

特に夏は暑さからごはんよりもそうめんなど水分の多い食品に偏りがちです。
「ごはん」の摂取を増やすために、少量の梅干しやたくあんなどで唾液の分泌を促すように指導しています。

また、咀嚼や嚥下、歯科的な問題のある患者さんには状態や好みに合わせ取り入れやすい食品や食べ方の提案を心がけています。

患者さんの日々の食事記録を計算していると炭水化物、たんぱく質摂取量は少なく、脂質の摂取割合が多い方もいらっしゃいます。
私たち管理栄養士もつい減塩やエネルギーアップのために揚げ物やごま油、オリーブ油などの摂取を勧めてしまいがちですが、まずは三大栄養素のバランスを確認し、適正なエネルギー摂取ができるように指導していきます。

2)リンが高い時

一番重要なのは、適正なたんぱく質量の摂取です。
しかし、それができていても、リンのコントロールがうまくいかないことはあります。食事量を適量にし、しっかりリンの吸着薬を飲んでいても、間食や飲料からとってしまっているケースはよく見かけます。

患者さんによっては、間食も重要なエネルギー源になることもありますので、医師と相談してリン吸着薬を使うか、リン含有量の少ないゼリー類や和菓子などに変更するようにおすすめしています。

医師や管理栄養士から食事についての質問をされると身構えてしまったり、ストレスに感じたりする患者さんもいらっしゃいます。
管理栄養士はあくまで最適な食事提案をすることが仕事で、実行するのは患者さんです。患者さんにストレスを与えないように注意しながら、何気ない会話から、日常生活や食生活のことを聞き出すように心がけています。

3)カリウムが高い時

カリウムは様々な食品に含まれているため原因が特定できないこともあります。
野菜や果物などの植物性食品には注意を払えますが、見落としがちなのが、たんぱく質を多く含む食品の摂取が多くなるとリンだけでなくカリウムも上がってくるということ。
そのため全体の食事量のチェックが必要になります。

また、食事以外でも飲料で上がるケースとしてコーヒーやココア、赤ワインなどの嗜好飲料が原因にもなりますし、健康食品やサプリメントなどの摂取にも注意が必要です。

4)食塩、水分の適量摂取

「水分制限が一番きつい」「食欲はなくても水分だけはとれる」「冷たい飲み物が一番ごちそう」といわれる患者さんが多いです。

透析患者の水分制限は、透析による除水量、季節、発汗量、運動量、排便状況、残存腎機能によって変化します。
内服薬が多く、そのための水分摂取は必要です。

水分の多い食事は塩分もとってしまいやすいのでまずは水分の少ない食事を心がけていただきます。
咀嚼のできる患者さんには、よく噛んで唾液の分泌を促し、食事中の水分摂取を避けることなども指導していきます。

また、食事量や消化機能の落ちた患者さんには、消化の良い食品の摂取を勧めますが、水分の多い食品がほとんどで、指導も困難となります。
必要に応じて濃厚流動食の紹介をしています。

逆に透析年数が浅く、若い患者の中には食欲がありすぎて、透析間の体重増加が多くなりすぎる方がいらっしゃいます。
食べ過ぎ防止のアドバイスも管理栄養士の重要な指導になります。
食べ過ぎていた患者さんが数週間であっという間に食欲不振になることも多くあるため背景や、精神状態を考えながら慎重にアドバイスします。

5)栄養相談する上で持つべき視点


透析患者の食事に厳しい制限はなく、管理栄養士からも患者さんを安心させる意図をもって「食べちゃいけないものなどはありませんよ」とよく言いますが、とはいえ大量に食べてもよいものもほとんどありません。
つまり食事はバランスが大事。それはだれしも同じですよね。

患者さんの食生活は、日常生活のあらゆることに影響されています。
生活環境、疾病、身体機能、家族環境、経済状態、精神状態、性格などなど。

私たち管理栄養士が日々経験することすべてを、栄養相談に生かせると思っています。
様々な患者さんと触れ合うこともまた経験となり、次の栄養相談に生かしていけると思っています。